委員長に胸キュン 〜訳あり男女の恋模様〜
 少しして講師が来て数学の授業が始まったけど、はっきり言って僕は授業よりも隣の桐島さんの方が気になっていた。

 初めは桐島さんに気付かれないよう、目だけを動かしてチラチラと彼女を見ていたのだけど、桐島さんは僕などまるで眼中にないのか、あるいは真面目な彼女だけに授業に集中しているのか、とにかく僕など全く気にしてないようなので、終いにははっきりと横を向き、彼女の横顔をしっかり観察していた。


 髪は黒く艶やかで、当然ながら染めたりはしてなさそうだ。

 鼻は高くはないけど低くもなく小さめ、かな。肌はいわゆる抜けるような白さで、しかし頬は薄ピンクに色付き、もしかするとチークを塗っているのかもしれない。

 唇もピンクで、少しプクッとした感じはさくらんぼみたいだ。ピンクと言えば、耳の辺りもピンクに染まっているような気がする。


「おい、そこの君!」


 もしかして桐島さん、熱でもあるんじゃ……

 と心配になった時、その桐島さんがいきなりクルッと僕を向いた。そして、


「バカ」


 と言った、と思う。声は、隣の僕でも聞こえるか聞こえないかというぐらいに小さかったけれど、桐島さんのさくらんぼのような唇が、はっきりと“バカ“と言う形を作っていたのを、僕はしっかりと見た。


 たぶん桐島さんに怒られただけなのに、なぜか僕の胸はキュンと締め付けられ、一瞬で顔がボッと火が付いたように熱くなってしまった。


「先生が怒ってるよ」


 続けて桐島さんはそう言い、今度ははっきりと聞こえた。でも、誰が怒ってるって?


「えっ?」

「前!」

「前?」


 桐島さんに言われておもむろに前を向いたら、数学の男の講師が、真っ直ぐ僕を睨みつけていた。

< 32 / 227 >

この作品をシェア

pagetop