LOVE or DIE *恋愛短編集*
さっき、バイクが1台入ってきたのには気付いていた。


他県ナンバーにこう気安く声をかけてくるのは、現地のナンパ野郎か同じ目的の旅人が多い。
――というのは、経験則だ。


メットを小脇に抱えた男には見覚えがあった。
この人は後者だ。


「お兄さん、もしかして一昨日青森からのフェリーに乗ってなかった?」

「あれ? もしかしてそっちも?」


とぼけちゃって。
本当は気付いてたんじゃないの?

函館の朝市でも、彼の姿を見かけた。
途中立ち寄った道の駅ではバイクを。

まったく一緒ではないけれど、似たようなルートを辿っていたはずだ。



大間・函館間を結ぶフェリーの中で、先にこの男を見つけたのは真希の方だ。

『ね、見て見て。あの人カッコいい! 1人旅かな?』


着ている服や持ち物から、すぐにバイカーだと分かった。

壁際窓横というベスポジを確保した男は長い足を投げ出して座り、片肘を窓辺に乗せ、首だけ捻って肩越しに窓の向こうの海を眺めている。

確かにイイ男だった。


船にはもう少し気楽に寛げるレディースルームだってあったのに、この男を鑑賞したがった真希のために、私たちは1時間半の航路を彼と同じスタンダードフロアで過ごした。



「湘南からで、青森までは陸路? 女のくせに、根性あるね」

「女のクセにって、やな言い方ー!」


文句言いながら、真希が笑った。
嬉しそうに。
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