LOVE or DIE *恋愛短編集*
「うそ……しんちゃん、でしょ?」

信じられずに聞き返した私を、彼は蔑んだ目で見降ろす。


「まー、そう呼ばれてた時もあるけどね。つーか今さら『しんちゃん』と出会えるわけないでしょ、何年経ってると思ってんの? いつか王子様がーとか期待しちゃってる? イタいよアンタ」

「……っ」


震える私に構わず、彼は着ていたシャツを脱ぎ捨てて上半身を晒した。
止めてくれる気なんか、ないんだ。


「ホラ、脱処女しようぜ。俺がイタくない女にしてやんよ」

「やっ」


助けを呼べるような大きな悲鳴なんか、本当に怯えてる時には出ないんだ。
こんな時になって、初めて気が付いた。

強引に触られそうになって、もがいた。
力が入らない、逃げられないかもしれない。
でもこんなヤツ、『しんちゃん』を馬鹿にするようなヤツ、絶対いやだ!

必死に抵抗する。

変なびりりという聞き慣れない音に続いて急にすーすーするようになったと思ったら、ニットの網目がほつれたのか、右腕の袖が取れて脇から胸のあたりまで大きく穴が開いていた。


「あーあ、ほら暴れるから」

それすら楽しむようにくつくつと笑う男が、本当に怖ろしい。

「いやあ……」

「それ、本気で嫌がってる? 叫べよちゃんと。どーせ誰も来ないから」


腰が抜けたのか、隙を見せられても立てない。
這って逃げようとしたところを後ろから羽交い絞めにされて、ニットの隙間から滑り込んだ手に胸を掴まれた。


――前言撤回。
人間マジピンチの時には、出そうと思わなくても、本気の悲鳴があがるらしい。
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