嫌われ者に恋をしました

「一緒にいたい?」

 雪菜はうなずいた。

「でもこのまま一緒にいたら、きっと抱いてしまうよ。いいの?」

 そう言った途端、また雪菜の体が強張ったから、わかり易過ぎてむしろ面白いな、と思えてきた。それなのに、雪菜は体を強張らせたままうなずいた。

「……嘘はダメだよ、雪菜」

 どうしてわかったの?という表情で雪菜が見上げてきた。わからないとでも思ったんだろうか。

「雪菜が嫌なのを知らないでそんなことして、俺が雪菜を傷つけてしまったら俺も傷つくんだよ。わからない?」 

 雪菜は目を大きく開けた。真っ黒い瞳に吸い込まれそうになる。

「嘘はダメ。わかった?」

「はい」

「今日は帰るよ。明日また会おう。下まで車で迎えに来るから」

 覗き込むと雪菜がうなずいたから、もう一度軽くキスをして体を離した。

「じゃあ」

 そう言うと雪菜は寂しげな瞳をした。それを見たらすごく帰りたくなくなったが、その気持ちを振り切って扉を開けた。

「ちゃんと鍵閉めて」

「はい」

「たぶん電話する」

 雪菜は微笑んでうなずいた。

「じゃあね」

 そう言って、隼人は扉を閉めた。本当は死ぬほど一緒にいたかった。でも、あの狭い部屋で雪菜のそばにいたら、やっぱり抱きたくなるだろう。そんな自分が怖かった。いったん離れて少し冷静になりたかった。

 雪菜が何を嫌がっているのか、わからない。俺を嫌がっているのか、行為そのものが嫌なのか。

 でも、俺のことは好きです、なんて言っていた。だとしたら、行為そのものが嫌なんだろうか。……瀬川に何か酷いことでもされたんだろうか。一つ一つひも解いて近づくしかない。
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