嫌われ者に恋をしました

 答えない雪菜を美乃里が諭した。

「雪菜、とりあえず課長と話をしな」

「やだ!ミノリちゃんちにいる!」

「ダメ。帰んな」

「……ミノリちゃん、お願い」

「雪菜、まずはちゃんと話をしてごらん。何か誤解があるのかもしれないよ。もし、誤解じゃなかったら、私がコイツを血祭りに上げてやるからさ」

 美乃里に明るく言われて、雪菜はまた黙りこんだ。

 隼人がどんなに見つめても雪菜は目を合わせようともしない。こんなに雪菜に嫌がられるなんて辛すぎる。苦しくてたまらない。

 手を引いて連れて帰ろうとしても、雪菜は激しく抵抗して、まるで散歩の途中で嫌がって前足を突っ張る犬みたいだった。

 美乃里に手伝ってもらい、嫌がる雪菜を無理やり引っ張って、何とか車に乗せた。

 助手席に乗せてもすぐに逃げようとして、外で美乃里にドアを押えてもらわなければならないほど雪菜は嫌がった。

 心配そうな美乃里に見送られて、やっと車を発進させたが、運転している間も突然ドアを開けようとしたり、シートベルトを外そうとするから、左手で雪菜の両手を強引に押さえたまま運転して家まで戻った。

 「痛い!」と言うのがかわいそうで、離してあげたくなったが、手を離したら車から飛び降りてしまいそうで怖くて離せなかった。

 こんなの、とても話を聞ける状態ではない。

 雪菜からこれほどまでに嫌がられていることも、嫌がる雪菜を無理やり押さえつけて連れて帰ることも、辛くてたまらなかった。

 それでも、地下の駐車場に到着する頃には雪菜はだいぶおとなしくなっていた。さすがに諦めたか?
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