好きからヤンデレ

もうひとつの斗真

智治side





「うちの子は!?どうなってるんですか!?」




真新しい新築の家で
彼の母は俺たちに問い詰めた。


あれから2人が消えた後、混乱する斗真くんのご家族の家に急遽捜査本部を設置した。

俺も何が何だかわからない。


「あ、あ、いえ...その」


「......智治。」


冷静を保てと上司に言われても
俺が失敗したのには変わりない。
テンパって舌が回らない。



「...申し訳ございません。ただいま斗真さんと連絡を取ろうと試みているんですが...。」


そう言いかけるも、喉に言葉が詰まる。


さっきからその口答えを繰り返している。

俺だって混乱しているんだ。

唯一の協力者であった彼が、
彼の姿ではなく変貌して
空実と消えた。


まぎれもない事実無根なのに
受け入れることができない。



「わたしはねっ!刑事さんが斗真を借りたいって言うから!わざわざ一芝居打って、しかも、奴にうちの子を貸したんですよ!?」


なのに...っ

そう涙をこらえながら怒りを震えたたせる名女優の彼女はとても綺麗だった。


だけど、これは劇中に起きているような事件ではない。





現実にある事件だ。




「しかし.....連れ去ったのは斗真さんでありまして...」


「ちがいますっ!!!斗真は、あいつになにかそそのかれたに違いありませんわ!」


「いぇ...その」


「それにしてもあなたっ!どうしてあの時二人を止め無かったのです!?怪我をしていても十分動けたでしょうっ!?」



涙を大量に流すお母さんの言うとおりだと
俺は心で後悔した。


そうだよ。

あの時、俺は動けたんだ。


首元の傷も、刑事魂を燃やせばなんてことなかったんだ。



だけど、俺は





綺麗な空実の泣き顔に




惚れ込んでしまった。






息をのむ美しさだった。


これこそ、この事件の一番の罪ではないかと思ったくらい


彼女は天使だった。






震える手が俺を惑わせた。


そのまま斗真くんが彼女の手を取っても

二人が駆け出しても、



体が固まって
二人の間を邪魔したら



天罰が食らうと思うくらい




二人の形は綺麗に値して


天使と悪魔のように。












「......お母さん。ごめんなさい。斗真さんはきっと...空実さんのことが好


ガっ


っ!?!?」




木製の綺麗なテーブルに刺さるフォークはこれ以上語るなという
暗示だった。




俺は確信した。




おかしい。


人は、大事なものを取られるとおかしくなると。




子を取られた母は

真っ赤な顔で震え上がり




早く息子を探せと




問いただす。





「智治...ここはお前がいたら危険だ。俺がする。お前は捜査班と合流して探せ。」


「いやっ!しかし...」


「お前がここにいても悪化するだけだ!いけっ!!」



「っ了解です!」



「必ず捕まえろ」




上司は頼もしい。


俺はあんな上司になりたい。





あぁ、捕まえたらお礼をしないとな。




「捕まえてきますっ!」




最近、疲れがたまっているようだし
温泉旅行でもプレゼントしなければ。



俺は、そんな孝行を考えながら

気持ちを引き締め現場に急いだ。










俺は後悔する。


この時を。






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