近未来少年少女



俺はそのまま振り返る事なく、家を出た

後ろでお母さんが悲しい顔をしてるのが分かった


でも響かない

俺の心には何も響かない

………………………
………………

…………


ミノルとの癒しの時間が終わり、家に着いた


玄関を開けた瞬間、家中にいい匂いが漂っていた

それも初めての事だった


いつもそんな“普通”の事に憧れていた

でも……でもどうしても、喜ぶ事ができないよ…


リビングに入ると二人分とは思えないぐらいの晩御飯が並んでいた


俺に気付いたお母さんは、ニコリと笑った


『あっおかえり。ユウキがお腹空かせて帰ってくると思って……作りすぎちゃったかな?』


作りすぎちゃったかなって……作りすぎだよ

エプロン姿のお母さんにはまだ慣れない


食卓をもう一度ちゃんと見ると、俺の好きな食べ物ばかりだった


『今日は楽しかった?』

多すぎる晩御飯を食べながら、向かいに座るお母さんが言った

『うん……』

いつもみたいに素っ気なく返す


ふっとお母さんの指先に目が止まった

『どうしたのそれ…』

五本ある内の二本の指に絆創膏(ばんそうこう)が……
お母さんはとっさに隠して、

『あ…お母さん最近まともに料理してなかったから……指切っちゃって……』と苦笑いを浮かべた


俺は料理の箸を止めた

家を出てく時、あんなに皮肉を言ったのに

言ってやったのに……………

なんで……なんでそんなに変わろうとしてんだよ……

俺が遊びに行ってる間、ずっと頑張って料理を作ってるお母さんの姿が目に浮かんだ

……くそ…………

こんな事で許してやるもんか………

許してなんか…………

…………………


頭ではそう思っていたけど、俺は大量の晩御飯を残さず食べた



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