幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜

「『見つけてしまった』からって、なぜここに連れてくる」
「自宅には、どうしても連れて帰れなかったんだよ。動物アレルギーのお父様がいらっしゃるから」


麻子の代わりに敦志が饒舌に状況を説明する。が、そんな事実も純一には面白くないことなわけで。


「飼えないなら、初めから拾わなければいい」
「……そんなこと、芹沢さんが出来る性格じゃないのは、純一くんが一番知ってるんじゃないの?」
「ああ。でもどうやら敦志の方が、よーく知ってるみたいだな」


子どものようなあからさまな嫉妬に、敦志もやれやれと長く息を吐く。
すると、麻子がぽつりと言った。


「だけど、誰かの身勝手で捨てられて、死んでしまうのは……」
「あいにく、うちの会社は動物園じゃないんだ。わかったら、〝それ〟をどうにかしろ」


冷静じゃない純一は、最後の言葉を口にしてからハッとした。
しかし、いまさら言った言葉は取り消すことなど出来なくて――。


「……〝社長〟が。〝人間〟が、どれだけ偉いんですか。助けられるかもしれない命ひとつを、容易く手離せるくらいに、自分が中心に回ってるんですか」
(……しまった!)


純一が後悔しても、ときすでに遅し。
麻子の背中には、怒りの炎がチラチラと燃えはじめ。俯いた顔からは、表情は見えないが、彼女の逆鱗に触れてしまったということだけは、誰にでもわかること。


「――早乙女さん」
「は、はい」
「今日は、特に会談や会議などなかったのですが、半休を頂いても?」
「……え」


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