幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜

「――なにをしてるっ……!!」


純一の頭の中では、背徳の二人の図が――――……。


「きゃっ……!! しゃ、社長?!」
「――純一くん?!」


二人の驚きの声が上がったのは、純一の想像通りのこと。しかし、視界に飛び込んできた光景は、自身が思い描いていたものではなく――。


「ど、どうしたんですか? こんな時間に、秘書課にいらっしゃるなんて」


動揺しながらも、秘書としてそう口にしたのは麻子。そして、すぐ隣に立っていた敦志も続いて口を開く。


「今朝特に急務はなかったはず――――あ。もしかして」


そうして敦志は、なにかを思いついたように目を大きくし、その後、その目を細めて言う。


「……なにか、ヘンな心配してたんじゃ」
「――お、お前らが紛らわしい会話をするからっ……だ」
「?」


純一が顔を真っ赤にして、敦志を睨みながら言うと、麻子は一人、首を捻って純一を見た。


「……そんなことより! そもそも俺に隠れて、なにをコソコソ――!」


敦志の突っ込みをごまかすように、話を元に戻す純一は、麻子の手の中にあるものに気付いて固まった。
麻子は純一の様子に気付くと、バツが悪そうな顔をして、その手を後ろに引っ込める。


「……俺の見間違いじゃなければ――子犬じゃないか? 手の中にいるのは」


ジロリと光る目を向けられた麻子は、イエスともノーとも言えずに、目を逸らす。そんな麻子に助け船を出したのが、やはり頼れる上司・敦志だ。


「野犬みたいな目をしないで、純一くん。子犬どころか、芹沢さんまで怯えちゃうよ」
「誰が野犬だ」
「芹沢さんが、たまたま見つけてしまったみたいで」


敦志が庇うように麻子に近づくと、麻子は後ろに回していた手を元に戻し、今度は純一に体を横に向けた。


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