今夜、きみの手に触れさせて
「あの、カバン……」
もう一度言ってみると、矢代くんは初めてこっちを向いた。
「いーよ。持ってやる」
軽やかにスラッと言う。
あんまり普通だからびっくりしちゃった。
部屋でヤスくんとしゃべってるときも、小川さんとしゃべってるときも、すごくテンション低くて不機嫌そうだったから、
もっとおっかない感じの人かと思ってた。
「で、でも、自分のカバンだから、自分で持つ……よ」
そう言うと、矢代くんはちらりとまたわたしを見る。
「そっか」
そして特に反論するでもなく、カバンを渡してくれた。
それを右手で受け取る。
左手はまだ矢代くんの手と繋がっているから。
矢代くんはきっと、女の子と手を繋ぐのとか慣れてるんだよね?
とても自然に彼はわたしの手を引いて歩いていた。