今夜、きみの手に触れさせて
『は、はい』
『青依ちゃん?』
上ずった声で電話に出ると、純太くんの声が耳に響いた。
普段通りの声。
『会えない?』
とその声が聞いた。
『えっ』
『今から行ってもいい?』
『い、今から?』
もう11時を過ぎている。
こんな遅い時間に出かけるなんてうちの家ではありえない事態だ。
『話したいことがあるんだ』
ポツッとつぶやくように純太くんが言った。
『う、うん、わかった。どこに行ったらいい?』
ありえない事態だけど、純太くんの声がなんだか深刻そうに聞こえてきて、何でもないふうに返事をしていた。
『迎え行くから、家の前で待ってて』
えー、そ、それはマズイかも。
お父さんがまだ帰ってないから、鉢合わせするおそれがある。
『んじゃ、あとで』
そう思ったのに、純太くんはもう電話を切ってしまった。