今夜、きみの手に触れさせて
えー、い、今から家を出るってことかな?
お母さんになんて言おう……。
こんな時間から外へ出かけるなんて、絶対に許してくれない。
いっそ見つからないように、黙って家を抜け出しちゃおうか?
でも、家の前でお父さんに見つかったら、どうしよう……。
と、とにかく、着替えよう。
早くしないと純太くんが来ちゃう。
二階の自分の部屋を出て、そっと階段を降りた。
音を立てないように、静かに、静かに。
降りたら、すぐそこが玄関だから。
「あら、どうしたの、青依」
ガーン。
いきなり階下でお母さんと出くわした。
夕刊を取るのを忘れていたんだって。
「あの、ちょっと出かけてくる」
仕方なくそう告げると、お母さんの顔が豹変した。
「どこへ? 何しに? 何時だと思ってんのよ」
険しい顔をして問い詰めてくる。