今夜、きみの手に触れさせて


「…きしま、おい、月島」


ハッと我に返ると、塾の先生が目の前に立っていた。


Aクラスの英語の授業中。




「また、聞いていなかったね」


先生は今までにない冷たい表情をしていた。


「あ……」


「ったく、どうしちゃったんだ?」


下を向いたわたしに、先生の呆れた声が降ってくる。


「……すみません」


「僕じゃなくて、これまでずっと努力してきた自分に謝りなさい」


先生はそう言い捨てると、わたしの席から離れていった。




どうしちゃったのか聞きたいのはこっち。


もう悩む必要なんてないのに、心が全部、純太くんのほうに向かっている。




優しかった純太くん。


可愛かった純太くん。


大人びた表情。声。まつ毛。瞳……。


純太くんの手。


純太くんの唇……。




きっとバカなんだ、わたし。


純太くんを忘れるなんて、できない。


もうダメ。次のテストではBクラスに落ちるよ。


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