憂鬱なソネット
あたしが羞恥のあまり顔を伏せそうになったところで、寅吉が「あ」と声をあげた。




ふいと目を上げると、まっすぐな視線にぶつかる。







「詩人です」






「………は?」






「ほかの仕事、詩人ってことで」







………『ってことで』ってなんだよ。



あたしはぽかんと寅吉を見つめ返す。







「………えーと、詩人ってことは。


詩集とか、出されてるんですか?


その印税で生活されてるってことですかね?」






「いや、詩集は出してないなあ」







寅吉がのんびりとした口調で答えた。



出してないなあ、って。






「じゃ、あれですか。


ツイッターとかブログとかで公開してるんですか?」






あたしがひくつく頬を必死で押さえながら言うと、今度は寅吉がぽかんとした顔になった。






「え、なんですか、それ。


外国の文学雑誌ですか?


俺、聞いたことないなあ。


あんまり外国のとか読まないんで」






「はぁっ!?」






あたしはさらに驚愕の表情にならざるを得ない。




寅吉とあたしは、お互いに途方に暮れたように口を半開きにしたまま、柔道着とドレスワンピで向かい合う。






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