憂鬱なソネット
この現代日本に、お日様の光で目覚めて、腹時計で時間を判断している人間が生息していたとは。




あたしはなんだか気が抜けてしまって、怒る気にもならなかった。






「………まぁ、とりあえず、事情は分かりましたから。


とりあえず、土下座はやめてください。


なんかこっちが申し訳なくなるし」






あたしは寅吉の前にしゃがみこんで、そう声をかけた。




寅吉が顔を上げる。




そして、あたしの顔を見てから、すーっと足下まで視線を下ろしていく。





どうやら、あたしの服装を観察しているらしい。







「…………その服は、あやめさんの好みじゃないってことですか」






「は?」






急に話題が変わったので、あたしは眉をひそめる。




すると寅吉は、いきなり手を伸ばしてきて、あたしのワンピースの裾をぐいっとつかんだ。






わぉ、なにすんの、このひと!!





あたしは驚いて硬直する。




寅吉はてろてろワンピの裾を、両手でさわさわと触った。






「たしかに、着心地の悪そうな生地ですねぇ」





「………うん、まぁね」





「それに、そんな細い支えしかない靴、バランスがとれないだろうから、転んだら危ない」





「ピンヒールのこと?


たしかに歩きにくいけど。


爪先に体重かかって痛くなるし」







あたしが正直に答えると、寅吉は再び顔を上げた。






< 17 / 131 >

この作品をシェア

pagetop