憂鬱なソネット
あたしは、笑いすぎて涙が浮かんできた目をこすりつつ、ひぃひぃ言いながら席に戻った。





たぶん、つけ睫毛が取れて、マスカラも滲んで、パンダ目になっているに違いない。





でも、そんなのもう、ぜんぜん気にならない。




なんせ、あたしの前で目を丸くしている男は、柔道着にぼさぼさ頭、おまけに無精ひげの変人なのだ。







「………ははっ、あーもー、くるし。


ひさびさにこんな笑ったわ………」







「………あ、あやめさん? 大丈夫?」






「大丈夫じゃないよ、お腹がやぶれそうだよ、寅吉のせいで」






「えっ、すみません。


俺、なんかしました?」







心底不思議そうに首を傾げているのが、おかしくてたまらない。







「………あのね、寅吉。


おしゃれしてる女性に向かって、ぜんぜん似合ってませんとか、ふつう言わないでしょ」






「え、そうなんですか?


似合ってないなら似合ってないって教えてあげたほうが親切かと」






「んなわけないでしょ」







あたしはばさりと言い切った。







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