憂鬱なソネット
手をつないでラウンジの真ん中を通り過ぎていく、柔道着とドレスワンピースを、人々が目で追う。






見たいなら見なさいよ。




あんたらなんて、どうせここでたまたま居合わせただけの、一回きりの縁なんだから。




どーでもいいよ。







あたしは、妙にすがすがしい気分でラウンジを出た。






目の前をのそのそと歩く猫背を追っていると、寅吉がとつぜん振り向いた。






「その靴、危ないから脱いだら?」





「そりゃ脱ぎたいけど、替えがないから」





「なるほど」






うんうんと頷いた寅吉は、なにを思ったか、あたしの手を離して、フロントに向かっていった。





そして、受付係の人と何言か交わして、何かを手に持って戻ってくる。







「なにそれ、はさみ?」





「うん、借りてきた」






はさみで何をするつもりなのかと思っていると。






寅吉は迷いなく、柔道着の帯を解き、上着を脱ぎ捨てた。







高級ホテルのロビーのど真ん中で、なぜか上半身裸になる男。








「あはははっ、寅吉、あんたほんとにアホだね!!


なに考えてんの!!」






「いや、靴の代わりに………」







寅吉は柔道着の袖をじょきじょきと切り、さらに帯も半分に切った。






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