憂鬱なソネット







外に出た瞬間。






「あー、いい天気!!」






あたしは思わず伸びをして、大声で叫んでしまった。





寅吉があははと笑ってこっちを見ている。






だって、今日ここに来るときは、お見合いなんか嫌で嫌でたまらなくて。



こんな高級なホテルに入るのも気が重くて。





とにかく負の感情が渦巻いていたから、天気を気にする余裕もなかったのだ。






今、こうやって空を仰いでみると。





川べりの並木道、輝く緑の向こうに。



真っ青な大空。



真っ白な雲。



明るい光を注ぐ太陽。






こんなに気持ちのいい日だったなんて。







袖なしの柔道着をはおっただけの変人男と並んで、柔道着の袖を履いて歩くのには、うってつけの日だ。






あたしたちはどこに向かうでもなく、のんびりと川沿いを歩く。





すれ違う人はみんな、寅吉の上半身とあたしの足元を見て見ぬふりをしつつ、横を通り過ぎて行った。





あの人たちの心に、あたしたちの姿はどんなふうに記憶されるんだろう?






まぁ、どうでもいいけどね。







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