憂鬱なソネット
でも、もしかしたら寅吉は、違ったのかも。


あたしに合わせるのに疲れて、嫌になったのかも。




だって、寅吉はあたしと暮らすまでは、太陽がのぼったら起きて、太陽が沈んだら眠る、みたいな生活をしてた(らしい)のだ。



でも、二人暮らしをするようになってからは、仕事をしているあたしの生活リズムに合わせてくれていた。



起床は7時、就寝は11時。


それって、寅吉にとっては、すごく負担だったんじゃ………。




そんなことを考えていると、あたしはどんどん気持ちが沈んでいった。




ビールを飲みながら、リビングの端に置いてある、寅吉が使っている文机に目を向ける。



机の上には原稿用紙が大量に積み重なっている。



適当に数枚を手にとって見てみると、色々な国に旅して寅吉が見聞きしたことが、独特な語り口で書かれていた。




………あたしと暮らし始めてから、寅吉はどこにも旅をしていなかった。


それって、寅吉にとって、ものすごくつらいことだよね。




あたしはさらに憂鬱になった。




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