憂鬱なソネット
寅吉が姿を消してから、あたしは自分の親にも寅吉の親にも何も報告していない。



心のどこかで、寅吉のことを信じていたから。



きっと帰ってくるはず、って。


いくら寅吉がとんでもない変人だからって、さすがに、結婚式をドタキャンなんてするわけない、って。



だから、できれば事を荒立てたくなくて、黙っていたのだ。




でも、それはあたしの思い込みだったのかもしれない。


寅吉は本当にあたしに愛想を尽かしてしまったのかもしれない。




自分の考えにどんどん沈み込んでいきながら、洗面所の鏡を覗き込んだ。



目の下にはどんよりと隈が浮かび、肌は全体的にくすんでいて、頬もたるんでいる気がする。




あぁもう、最悪だ。



別に、結婚式に乙女チックな夢なんて見てたわけじゃないけど。



人生で唯一の(はずの)晴れの日に、こんな疲れきった顔をしているなんて。




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