憂鬱なソネット
あたしは重い身体を引きずるようにして駅に向かい、電車に乗った。



日曜の朝ということもあって、車内はすかすかだ。



座席の背もたれに凭れて、窓の外を流れていく朝の景色を見ていると、不安やら疑念やら、暗い感情ばかりが心の中に渦巻いてくる。



あたしは鞄の中に入れていたチョコレートを取り出し、口の中に放りこんだ。



こってりとしたしつこい甘さが、こんなときには心を慰めてくれる。




電車を降りて、のろのろと歩いたけど、すぐに式場に着いてしまった。



あぁ、やだなぁ。


お父さんたちになんて言えばいいんだろう。



寅吉の失踪を告げたら、大騒ぎになるのは間違いない。



でも、まだ、来ないって決まったわけじゃないし………。


なんてぐるぐる考えていると。




「あやめ! こっちこっち」




自分を呼ぶ声にあたしは顔を上げた。



式場の中でお母さんが手招きをしている。




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