この思いを迷宮に捧ぐ
「あんた、今、敵に見つかったら殺されるよ」
千砂がうっすらと目を開いた時、冷たい目で翠が自分を見下ろしていて、ぞっとした。
知らないうちに、控室だった部屋に戻って来ていて、ベッドに横たわっている。
その上、喉元を翠に押さえこまれているのだ。
「酒が命取りなら、どこでも徹底的に断れ」
ばれた。
千砂はすっと背筋が寒くなる。
いつもなら、坡留にグラスをそっと差し替えてもらったりしていたが、やはり客として参加する場では上手くいかないことがある。
「俺が水の国から差し向けられた刺客だったら、どうする?」
喉元に圧力を感じ、千砂は、それが事実で、もうこの場面だとしたら、自分にはどうしようもないと思った。
「…へえ。まだそんなの持ってたの」
どうしようもないながらも、坡留に、犯人を探す手がかりになる手傷くらいは負わせてやれる。千砂はブレスレットから刃物を出して、翠の手首に向けていた。
小さいが、鋭い刃は、人の骨も切ることができると聞いている。手首の脈くらい断ち切れるはずだ。