秘密実験【完全版】



「ひっ……!」


 突然、外側から響いてきた破裂音に、杏奈はビクッと肩を跳ね上げた。


 ──今のは銃声?


 ってことは、まさか……



「っ……嫌! そんなの嫌ぁあああ!」


 杏奈は泣きながら激しく首を振った。


 とうとう一人になってしまったのだ。


 ヒトリ……。


 それは“死”を意味していた。


 ここから出してくれる人もいない。


 つまり──



「わ、私……餓死するの? そんなの……そんなの、そんなのッ……!」


 杏奈は狂ったように、首を振り続けた。


 喉がカラカラに渇き、空腹も限界に達している。


 今度こそ、誰も助けてくれる人がいなくなった。


 死人しかいない屋敷なのだから……。


 泣いても叫んでも、この家には杏奈しかいない。


 いくら蹴っても、頑強な鋼鉄の扉はビクともしない。


 誰か……


 私を助けて。


 いい子になるから、お願い──。



「ひっ……うう……。ひっく……助けてぇええええッ!!」


 金庫の内側で杏奈の絶叫が反響する。


 未曾有の恐怖に、頭の中が激しく混乱した。


 理性が働かず、生理的な欲求が歯止めを効かずに溢れ出す。


 下半身を濡らしていることにも気づかず、杏奈は意識を失うまで激しく泣き叫び続けた。



 “実験”は失敗には終わらなかった。


 首謀者である芹沢真の亡き後、被験者A──木南杏奈は死への恐怖に、とうとう理性と人間としての尊厳を奪われてしまったのである。


 八月十九日、実験終了。


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