秘密実験【完全版】



「いやッ……! 何これ?」


 ヘッドフォンから聞こえる不快な音に、杏奈は顔をしかめた。


 外したいが、手が使えない。


 近くに立つ男は、無表情に杏奈を見下ろしている。


 いや、監視していると言った方が適切かもしれない。


 キィ キィ キィ───!!


 耳から脳内へと、高周波の雑音が送り続けられる。



「あ……あぁっ、もう止めて……!」


 ただでさえ頭痛持ちの杏奈は、こめかみ辺りの痛みを感じながら叫んだ。


 しかし、男は何も言わず無表情のまま……。



『あははははは! あっははははははは!!』


 無機質な音から、奇妙な笑い声に変わった。

 笑い声の方がまだ耐えられそうだと思ったが、その考えは見事に打ち砕かれた。



『ふふふっ。ふふふふ……あーっはっはっは! ひゃはははははっ……! くくくくっ!』


 繋ぎ合わせたと思われる高低音の笑い声が延々と続き、苛立ちと不安と恐怖が混ざり合った気分に包まれる。


 老若男女の笑い声に絶え間なく耳の鼓膜を震わされ、精神的にダメージをもたらされた。


 このまま聞き続けてたら、こっちまで頭がおかしくなる……。


 そう思うとゾワリと両腕に鳥肌が立ってきた。



「はぁっ……はぁっ」


 苦痛に呼吸が荒くなり、杏奈は毛布の上に横たわった。


 “笑い声”の拷問はその後も続き、男が再び部屋に戻ってきたときはグッタリしていた。



「次はこれだ」


 男がそう言って、デッキに別のDVDを入れる。


 赤ん坊のけたたましい泣き声がヘッドフォンから流れ出し、杏奈の耳をつんざいた。



『おぎゃあっ……おぎゃあっ……おぎゃああっ……あああああっ……!!』


 その泣き声には可愛い赤ん坊のイメージはなく、ただ不気味で不快なだけだった。


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