memory
目を開くと、シルクの顔が目の前にあった。
「次元、大丈夫?」
うなずいて、起き上がった。身体はどこも痛くない。その代わりに、身体の感覚が薄かった。
「ねえ、シルク。僕、どのくらい眠ってたの?」
「まる1日。後、1日しかないよ。分かるでしょ?自分が消えかかってるの。」
自分の手を目の前でかざすとスッと透けているのが分かった。

「やばいな、僕。」
「かなり進行が進んでる。私が案内しないと本当に間に合わない。」
シルクがこういうことを言っているのに、頭の中では何故か病院の費用とかお金足りるかなとか、そんなことを考えていた。
「ねえ、シルク。病院のお金、どうしよう。」
シルクは予想外の返答だったのか目を丸くして呆れたように微笑んだ。
「もう次元は周りの人には見えなくなってるから。私にしか見えていないの。」
思わずヒステリックに笑いたくなるのをこらえた。嘘なんかじゃないんだ。本当に、本当に僕はこの世から消えてしまうんだ。今はもう人にすら気づかれない。僕と話せるのはシルクだけであり、あと1日経てば、シルクにすら気づかれない存在へとなり果てる。
「急ごう、早く身体を見つけなきゃ。」
ベッドから立とうとしたが、シルクに止められた。
「無理をすれば、記憶粒子はかなりの早さで消耗する。後1日寝たほうがいい。もう暗いから。」
ああ、今まであったことが、全て夢だったらいいのに…。
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