memory
「あ、急がないと。」
いつの間にかシルクは僕の横にいた。
「次元。お母さんは自然に忘れたんじゃないよ。次元に記憶を吸収されてるから、記憶そのものがないの。」
まさか。いや、マジで?話がだんだん現実的になっていく。これは冗談なんかじゃない。母さんは、完全に僕のことを忘れてる。
シルクは少し考え込んだあと、僕を見た。
「次元、アルバムはある?」
「あるよ。当たり前だろ。」
「あるなら見せてよ。」
シルクの要求に応じて、僕は私室に行き、本棚からアルバムを取り出して広げた。
「これが、生後6ヶ月の頃で…あれ?」
ふと、生後6ヶ月の頃のページで手を止めた。目にしたのは、僕の家のリビングのソファーの写真。
「……映ってない?」
そんな馬鹿な。次のページをめくる。
「……僕、映ってない。」
写真には、見慣れた家の風景がたくさんあったけれど、僕は映っていなかった。次のページも。更に次のページも。
そして、決定的な1枚を発見してしまった。僕の父さんと母さんだった。母さんの不自然な手を除けばどこにもおかしな所はない。
「この手って…。」
「抱っこしてたんだろうね、次元を。」
母さんの手は、何か大切なものを抱えているようにしていたけど、その手には何もなかった。茫然としていると、開いていた窓から風が入り込み、ページが風でパラパラとめくれた。そして、さっきの生後6ヶ月の頃の写真でゆっくりと止まった。そして、3秒くらい経って、写真の中の赤ちゃんがゆっくりと消えた。
「ごめん、ごめんね。私にはどうすることもできないよ。」
さっきまで映っていた赤ちゃんの写真には綺麗な畳が映っている。それが、僕が本当にいなくなってしまうという完全な証拠だった。
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