絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
第二章 突然のくちづけは嵐の幕開け

ディアルノ大陸の南西に位置する大河アガトのほど近くに、静かな農耕牧畜の暮らしを営む民族が現れたのはいつの頃だったろう。

少なくともシルフィたちの時代の1200年前にはすでに、ディアール民族と呼ばれる彼らが、小さな集落を作って暮らしていたという記録がある。

この集落に最大の危機であり運命の転機でもある出来事が起こったのは、その200年ほどあと、今より約1000年前のこととされる。

ある日村の地面のあちこちから、次々と奇怪な植物が生え始めたのだ。それは数日で見上げる高さにまで成長し、毒々しい紫と緑の水玉の花をつけ、毒のある胞子を飛ばした。その胞子によって人々は頭痛や吐き気をもよおし、高熱にうなされ、体の弱い者は死んでいった。

当然、人々は植物を焼こうとしたが、頑丈な茎を持つ植物は炎をまったく受け付けなかった。

村を憂えた一人の娘が、三日三晩飲まず食わずで万物の神ジュピテリオスに祈りを捧げた。

「どうか村をお救いください。私の命を差し上げます。どうか、どうか…」

ジュピテリオスは娘の汚れなき祈りに心打たれ、娘の腹に自らの子を宿らせた。

たったひと月で生まれてきたその子はアンティストと名付けられ、わずか三日で美しい金髪の青年の姿に成長した。

彼は金の光を自在に操り、あらゆるものをつくりだす不思議な力を持っていた。

その力で見事な剣を創り出し植物を断ち切るアンティスト。
< 18 / 176 >

この作品をシェア

pagetop