絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
第四章 芽生えていたはずのもの
1
夏の一の月(6月)が駆け足でやってきた。
春に吹く、シロッコと呼ばれる高温多湿な風が去り、ジュピテリオスは温暖で乾燥した夏を迎えていた。
もうシルフィが来てから二か月目になるが、シルフィときたら、やることなすことばかげている、とテフィオは思う。
性懲りもなく授業そっちのけで、彼女が「プティの風の丘」と呼ぶ丘へファイツを連れ出し、“契約(ファントリエル)”の文言を覚えさせ、しゃべらせようと奮闘している。
そんなシルフィに、ファイツもいい加減うんざりしているといった表情だ。
この間などは、シルフィがあまりにもうるさいからだろう、ファイツが突然シルフィの持っていた羊皮紙とペンをふんだくった。
そして…
『お前なんか大嫌いだ! お前も、この樹も、この景色も太陽も雨も何もかも! 大っ嫌いだ!』
と、意外にかわいらしい丸文字でつづった。
それを見たシルフィはなんと、ぽろぽろときれいに涙をこぼしたのだ。
テフィオはあまりに突然のことにびっくり仰天した。
それほどショックだったのかと思ったが、どうも違うようだった。
「ファイツ…ファイツ! ありがとう、やっとあたしとしゃべってくれたね! ファイツの気持ち、教えてくれたんだね! ありがとう!」
そう言ってシルフィは、力いっぱいファイツを抱きしめていた。
嬉しくて泣いたというのだろうか。
テフィオには理解不能だった。
―なんなんだこいつ。こんなやつ、見たことがない。
そんな奇想天外なシルフィの影響なのだろうか、最近のファイツはうつろな表情ではなく、感情をよく見せるようになっていた。
シルフィや自分には怒りを見せるが、小鳥のプチにだけはどうやら違う感情を持っているようだ。優しい視線を送っていることがある。
いい傾向だ。「目的」のためには…。
春に吹く、シロッコと呼ばれる高温多湿な風が去り、ジュピテリオスは温暖で乾燥した夏を迎えていた。
もうシルフィが来てから二か月目になるが、シルフィときたら、やることなすことばかげている、とテフィオは思う。
性懲りもなく授業そっちのけで、彼女が「プティの風の丘」と呼ぶ丘へファイツを連れ出し、“契約(ファントリエル)”の文言を覚えさせ、しゃべらせようと奮闘している。
そんなシルフィに、ファイツもいい加減うんざりしているといった表情だ。
この間などは、シルフィがあまりにもうるさいからだろう、ファイツが突然シルフィの持っていた羊皮紙とペンをふんだくった。
そして…
『お前なんか大嫌いだ! お前も、この樹も、この景色も太陽も雨も何もかも! 大っ嫌いだ!』
と、意外にかわいらしい丸文字でつづった。
それを見たシルフィはなんと、ぽろぽろときれいに涙をこぼしたのだ。
テフィオはあまりに突然のことにびっくり仰天した。
それほどショックだったのかと思ったが、どうも違うようだった。
「ファイツ…ファイツ! ありがとう、やっとあたしとしゃべってくれたね! ファイツの気持ち、教えてくれたんだね! ありがとう!」
そう言ってシルフィは、力いっぱいファイツを抱きしめていた。
嬉しくて泣いたというのだろうか。
テフィオには理解不能だった。
―なんなんだこいつ。こんなやつ、見たことがない。
そんな奇想天外なシルフィの影響なのだろうか、最近のファイツはうつろな表情ではなく、感情をよく見せるようになっていた。
シルフィや自分には怒りを見せるが、小鳥のプチにだけはどうやら違う感情を持っているようだ。優しい視線を送っていることがある。
いい傾向だ。「目的」のためには…。