愛してる
9月

仕事が終わったら、
水族館に行こう。







朝、彼がそう言った。

行きたいなって言ってたの、
覚えていてくれた。
嬉しかった。









お昼に彼のケータイが鳴った。


電話に話しかける彼の声は
ひどく不機嫌で無愛想だった。





あんな顔もするんだ。

びっくりした。









結局、水族館には行けなかった。


ちびちゃんが幼稚園で熱を出して、
お嫁さんは仕事があるからと
代わりに彼が迎えに行くことになった。








「大丈夫だよ」
笑顔で送り出したはずなのに


「お願い、泣かないで」
彼が私の目尻に親指をそえる。
こらえきれない涙が頬をつたう。













大丈夫、大丈夫。

まだ、きっと、大丈夫。













彼といるときに感じる
この気持ちがなんなのか、
もうとっくに気づいてた。



でも、大丈夫。

まだ戻れる。




気づかないふり、できる。







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