絶対王子は、ご機嫌ななめ

「私、ちょっとトイレに行ってきますね」

円歌ちゃんや智之さんの気持ちはありがたいが、ここまでイジられると対応に困ってしまう。

少し気分転換したくてその場を離れると、クラブハウス内のトイレへと向かう。でも建物奥にある女子トイレの前にはかなりの列ができていて、すぐには入れそうになかった。

しょうがなく角を曲がる前の壁にもたれかかりながら人が減るのを待っていると、もたれていた壁だと思っていたドアがいきなり開く。『あっ!』っと思った時にはすでに身体が後ろへと倒れ始めていて、バランスを完全に崩してしまった私は、次に来る衝撃から身を守るためグッと身体に力を入れた。

「少し黙ってろよ」

当然背中から転ぶと思っていた自分の身体は誰かの身体で受け止められ、恐怖から声を上げそうになった口は大きな手で塞がれる。

さっきまでとは違う意味で身体に力を入れるけれど、足がガクガク震えて立つのが辛くなってきた。

どうしよう……。

このままじゃ助けを呼ぶこともできないじゃない。

恐怖心から身体が冷えて、全身が震えだしてきた。

このまま私、ここでこの人に……。

こんなことになるんだったら政宗さんの家に行った時、円歌ちゃんに遠慮しないで私の初めてを政宗さんに捧げておけばよかったな。

しかも、どこの誰かもわからない人に“勝負下着”見せることになるなんて、ホント悲しすぎる。

そんな『それ、今考えること?』とツッコまれそうなことばかり考えていると、耳元に息づかいを感じさらなる恐怖にギュッと固く目を閉じた。



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