絶対王子は、ご機嫌ななめ

政宗さんの前日までの成績は二位。トップとの差は一打差のアンダー10。

最終グループでプレーする政宗さんを大勢のギャラリーに紛れて応援する私も、次第に手に汗を握る。

残り3ラウンド。

たった一打差なのになかなかその距離が縮まらなくて、さすがの政宗さんもイライラしてる?

時々見せる悔しそうな顔からそんな感じが見て取れて、ちょっと心配になってしまう。

「あら、あなた」

じっと政宗さんのプレーを見守っていると、隣に立っていた六十代くらいの女性に突然声を掛けられた。

「はい、なんでしょうか?」

「あなた、曽木プロの彼女さんよね?」

「え?」

その女性は他の人には聞こえないように身体を寄せてこそっとそう言うと、ニコッと笑ってみせた。

「な、何言ってるんですか? 違います違います!」

慌ててそう否定してみたものの、女性は笑みを深めて話を続けた。

「彼がこの世界から姿を消した時、ずっと応援していたから本当に寂しくてね。でもいつか、いつの日か戻ってきてくれると信じて待ってたの」

女性が政宗さんのことを見つめる視線から、その言葉が本当だということがよく分かる。穏やかで、でもまっすぐ政宗さんを見る瞳はキラキラと輝いていて嬉しそうだ。



< 177 / 222 >

この作品をシェア

pagetop