絶対王子は、ご機嫌ななめ

政宗さんが連れて行ってくれたのは結構名の知れた中国料理の店。いつの間に予約したのか、個室へと案内された。

いつも昼はふたりで食べることが多いから、ふたりっきりの状況には慣れたつもりでいたんだけど。

むちゃくちゃ緊張するー!!

席についてから顔が上げられないと言うか、政宗さんの顔がまともに見れない。

車の中で“柚子”なんて呼び捨てにされてから、どうも調子がおかしい。

「柚子は何が食べたい? 今日は好きなもん食べていいぞ」

メニューを見せられても緊張からか何を選べばいいのかわからなくて、一番最初に載っていたものを指さした。

「あの、じゃあラーメンで」

「はあ、ラーメン? おまえ何いってんの? そんなどこでも食えるもんじゃなくて、ここでしか食えないもんを頼めよ。欲がないやつだなぁ」

「す、すみません」

何もそんな大きい声で言わなくてもいいじゃない。だってどうしたらいいのか、自分でもわからないんだから。

身体をこわばらせて小さくなっていると、政宗さんのため息が耳に届く。

「好き嫌いは?」

「……ないです」

「ここは料理長オススメコースが旨いんだ。それ頼むぞ。いいな?」

私が俯いたままうんと頷くと、政宗さんは店員を呼び注文を済ませた。

「なあ柚子?」
政宗さんは突然穏やかな声を出すと、私の名を呼ぶ。その声に顔を上げると、大人っぽい笑顔を見せる政宗さんがいた。

政宗さんが笑顔? しかもその笑顔が、なんだか優しいんですけど?

政宗さんが私に笑顔を見せるなんて、天変地異でも起きるんじゃない?

驚きすぎてまばたきを繰り返していると、政宗さんが私のおでこをピンッと弾いた。



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