絶対王子は、ご機嫌ななめ

従業員用の出入口を抜け、駐車場の一番奥に停めてある愛車まで脇目もふらずに足早に向かう。

今は誰にも会いたくない──

そう思っていたのに神様は意地悪で、今この世で一番会いたくない人が私の愛車の前に立っていた。

「柚子、飯行くぞ」

そう私に向かう姿は、いつも通りの政宗さんで。ごく当たり前のように言うと、私に向かって歩き出す。

でも私はいつも通りにはいかなくて。クルッと踵を返すと、一目散に逃げ出した。

「お、おいっ柚子、待て!」

昼間は智之さんに『待って』と言われ、今度は政宗さんに『待て』と呼び止められる。

でも誰に呼び止められたって、逃げてるんだから待てるはずがない。だから追いかけてこないで!って思っているのに、政宗さんは鬼の形相で追ってきた。

「橘柚子! 今すぐ止まれ! さもないと、後で痛い目見るぞ!」

痛い目なんて、もうとっくに見てますよ!

なんて、心の中で悪態をつく。





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