絶対王子は、ご機嫌ななめ

  勘違いさせないで


さっきから政宗さんは、『あいつのとこになんて連れてくるんじゃなかった』とか『っとに、今度会ったら覚えとけよ』とか、ずっとひとりでボソボソ呟いている。

政宗さーん、心の声が丸聞こえですよー!

そう心の中で教えてあげて、でも政宗さんの呟きを一言一句聞き漏らさないように耳をそばだてる。

でもちょっと意外だった。

無愛想で俺様。俺の言ったことに反論は許さない的な強引さ丸見えの“絶対王子”だと思っていたのに。病院での政宗さんは、私がネットや雑誌で見たプロで活躍していた頃の姿を彷彿させるものがあった。

偉そうなことを言っていても康成先生と笑い合っていた顔や、私に対して見せたムキになって赤くなった顔は、素の政宗さんだったはず。

いつもそうやって素直な表情を見せてくれればいいのに。そんなことも出来ないくらい、心に出来た傷は深いということなんだろうか。

「なあ。そんなに見つめられると、気持ち悪いんだけど」

「え? ああ、すみません……って政宗さん! 気持ち悪いは言いすぎなんじゃないですか?」

政宗さんのことを考えすぎて、何じっと見つめちゃってたんだろう。恥ずかしい……。

パッと正面を向いて俯くと、赤信号で止まりふっと笑みをこぼした政宗さんが、私の頭にポンと手を乗せた。



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