マルメロ

ミナが、不可解な表情で自分の席へ戻る――。


サユリとの「邂逅」に夢中で、降る雨など認識していなかった彼は、自身の昼休みの行動を誤魔化し、改ざんした――。


サユリと、「憩いの場」の存在は秘密――知られた途端に関係性は解消され、安らぎのサンクチュアリを失う――。


隣で「うぐぅ」と唸り、少しよだれを垂らして未だ夢見心地の「事情通」のマリネにも、サユリの素性を問う事も不可能――。


サユリが言った「プラトニック」な関係とは、こうした制限も含まれていたのだ――。


互いの素性など、猥雑な情報に過ぎない――正面から向き合い、会話を交わし、時に相手を揺さぶる仕草と言葉を駆使し、真の人間性を見定める――。


「だからこその私とあなたの部室――そして、人間観察部なのよ――」


冷徹であり、女の色香が滲み、少女の無垢さが残り、憂いのある声の色が、彼の脳裏で怪しく響く――。




「なる程――」



「マリネ、起きろ――」


全てに納得した彼は、マリネの肩を揺する――。



「ふえぇ――」


よだれを拭うと同時に教師が入室し、午後の授業が開始される――。

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