マルメロ

「あら、私はあの女達みたく腹黒くないわよ――」



「あの女――生々しいな、上級生の会長や副会長に対して――」


彼は、「わかっていながら」サユリを諭す――。


ここで出逢い、あの眼に「吸い込まれた」時から、誰にも物怖じせず、意味ありげな物言いと振る舞いが、サユリそのものを構築している事には理解していたつもりだったが、ロリだの腹黒いだのと、ミレイや琴音を揶揄するサユリを彼は、やや怪訝に眺めてしまっていた――。


怪訝――まぁ、サユリなら対象が上級生でも媚びないだろうと何処かで彼は感じ、思い、実際、「サユリ」である感情は顕わになった――。



「各陣営、もう色々と動いているんでしょうね――」


「ミレイ会長は、妙な腹芸はするなって言ってたけどな――」


「それって、典型的な振りでしょ――押すな、みたいな――」


ミレイの思惑を解き、残ったお茶をサユリは飲み干す――。


急須に手を伸ばし、「かぽっ、かぽっ」と湯を注ぎ、湯呑みを潤し、味わう――。


新しいどら焼きを二つに割り一口大にちぎって、甘さを味わうサユリ――。


瞬間、少女の無垢さが覗く――。

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