悪魔の目
生暖かい液体が、頬を伝い、僕は目を覚ました。

暖かな液体は僕の身体全体を包み、少し泳いでみる。頭が天井に当たり、それは肉壁のようで、ポーンと跳ね返る。ここはどこだろう。死後の世界なのか、息をしなくても苦しくない。

辺りは暗闇に覆われ、だが、底知れぬ安心感がある。上下左右に身体が揺れ、それはまるで揺り籠のように心地いい。

目をそっと閉じると、シューベルトのピアノ曲、第18番幻想が聞こえる。

「優太ちゃん。早く産まれておいで。」

懐かしい声が聞こえきた。

「あなた、お腹にクラシックを聞かせるとね、胎教に良いんですって。」

それは母親の優しい声だった。

(母さん…!)

僕は母親に気づいてもらおうと、必死に肉壁を蹴った。

「あ、動いた。元気でちゅねー。ママですよぉ。」

どうやら僕は母親のお腹の中にいるようだ。母親が僕に答えるように、お腹をさするのがわかる。
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