今日も君に翻弄される。
「むむむ……」


和泉くんと食べたいかと問われれば、食べたくないわけがなく。


でも、和泉くんのことだから、わたしに食べさせるために適当な方便を言っているに違いなく。


ここは食べるべきか、食べざるべきか。


思案顔のわたしに、真面目な、真剣な、


……本心だと思わせる表情で、和泉くんは宣言した。


「僕は一緒に食べたいんだけど」


そんなことを、言われたら。


「むむ……」


食べないわけには、いかない。


「というか僕、二つも食べられないんだけど」

「むー……」


さらに畳みかけられ、もうほとんど食べる選択に傾いているわたしを和泉くんが低く呼ぶ。


「葵」


一緒に食べようよ、のお誘い。


「……食べる」


和泉くんはいつだってずるいんだ。


でも、その優しいずるさが大好き。


ありがとう、いただきます、とふたを外すと。


「うん、どうぞ」


微笑んだ和泉くんもふたを開けた。
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