名前を教えてあげる。



『一緒に逃げよう。あてがあるんだ』



順のいう「あて」とは、駅から5分程歩いた場所にあるタワーマンションだった。

制服姿で大きなボストンバッグを持った修学旅行みたいな美緒たちには不似合いな場所だ。


マンションのロビーエントランスで暗証番号を打ち込む順の後ろで、美緒はただ驚き、きょろきょろと辺りを見回していた。


洒落た照明に大きな観葉植物。

外の寒さが嘘のように、中に入った途端、厚手の上着が不要なくらいの適温だ。


「すっごい…高級なホテルみたい…前に行ったラブホとは全然違う……」


感嘆の息を吐く。

エレベーターに乗り込み、25階のボタンを押したあと、順は黒いボストンバッグを藍色の床に落とし、パッと美緒の方に身体ごと向いた。


「覚えてる?チョコレート・ハニーヌガー」


「あー…」

瞬く間にエレベーターの階数表示の数字が上がっていくのと、順を交互に見ながら美緒は答えた。



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