名前を教えてあげる。
「なんだ?早く言え。腹が減ってるんだ。お前ら飯まだだろう?外食は面倒だ。デリバリーの中華をとろう」
明瞭で怜悧な物言いは、いかにも弁護士という印象を人に与える。
「…うん。ちょっと、これにはわけがあるんだ」
「まあ、2人とも座れよ」
ヒロはテーブルの向こうにある長ソファを指差した。
順は神妙な面持ちで、美緒が妊娠していること、お腹の子を守りたくて2人で家出をしてきたことを話した。
黒革の1人がけソファに長い脚を持て余すように組んで座るヒロは、順の話にたいして驚く様子もなく、ふんふん、と頷くだけだった。
斜交いに座るヒロのごつく突き出た喉仏。膝に置かれた手の長くしなやかな指。
美緒は、ついヒロの大人の男の色香に釘付けになってしまう。
自分のことなのに、2人の会話など半分うわの空だ。
「こうなったのは、俺がちゃんとしなかったからだ。なのに彼女だけが残酷な目にあって、俺は何も変わらず生活するなんておかしいだろ?
俺は、覚悟を決めたんだ。
美緒とお腹の子供を幸せにする為に、大学進学は諦めて働く。親に祝福されなくても構わないよ」