名前を教えてあげる。
「良かった…
大きな病気じゃないんですね」
恵理奈を抱いた順がホッとして言う。
「母乳が出ているうちは、生理は来ないんだけど。出ないから、すぐに来ちゃったのね。でも、ちょっと早過ぎるわね。困ったことになるかもしれないね?」
謎掛けのような言葉のあとに、女医は美緒の方にゆっくりと身体を向け、じっと見る。
嫌な予感がした。
「……何ですか?」
美緒は訊かずにはいられなかった。
「やっぱり、気付いてないのね」
小さく溜め息を吐いたあと、きっぱりと告げた。
「あなた、妊娠してる」
「……えっ…!」
美緒は頭を殴られたようなショックを受け、絶句した。
「妊娠してる……?」
順がおうむ返しに繰り返した。
お腹は空いているはずなのに、美緒は昼食のカップラーメンを半分残した。
重い沈黙の部屋。
扇風機の小さな送風音をかき消すように、「星に願いを」のオルゴールの音がゆっくりと流れる。
恵理奈は起きていて、小さな布団の上で仰向けになり、ベビージムに吊り下げられたマスコットに盛んに手を伸ばしていた。
帰宅してから、1時間も経つのに、一言も会話していなかった。