名前を教えてあげる。


「やるわけないじゃーん!勢いで言っちゃっただけ!」


美緒はわざと突き放した言い方をする。


「私、もお、恵理奈の母だもん!」


「良かった…」


美緒の言葉に、順は嬉しそうに笑った。


「俺さあ…」


「何?」


順は身体を揺すり、ソワソワと落ち着かなかった。


「あのさ…」

意を決したように美緒を真っ直ぐに見る。


「……他の男が美緒の身体に触れるって、考えただけで気が狂いそうになるんだ。
あれは本気で言ったんじゃないって分かってても、自分でもどうしようもなくて」


コントラストのはっきりとした透き通った瞳に美緒は、吸い込まれそうになる。


車がガソリンスタンドに入ってきた。


「っらっしゃいませえ!」


ピットにいる誰かがガラガラ声で叫んだ。


順も振り返り、「いらっしゃいませえ!」と叫んで、踵を返す。


「戻るよ。美緒、カッパありがとう。気を付けて帰れよ。教習ねえし、俺、
早く帰れるから」


軽く手をあげて走り去る順に、美緒は

「今夜はコロッケと素麺だよ!」

と手のひらを口に添えて大声で言った。


美緒の言葉に順は、軽やかに身を翻し、親指を突き出すポーズで「上等!」と返した。


「順ってば、むっちゃくちゃカッコいい…」





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