名前を教えてあげる。
キビキビと立ち働く姿をしばらく眺め、あんな男が自分の夫だと思うと、美緒は心から幸せな気分になった。
太陽が高くなるにつれ、暑さが増してきた。
帰り道、通りすがりのコンビニに入ると、冷房の快適さに美緒はホッと人心地ついた。
「すいませーん『北海道男爵コロッケ』を3コとお、北海道ソフト、1コ下さい。あ、ソフトはここで食べまあす」
「ありがとうございます。出来たらお呼びします」
店員が準備する間、美緒はイートインコーナーに移動した。
椅子に腰掛け、バギーに引っ掛けたママバッグの外ポケットから紙切れを抜き取る。
「……ごめんね。馬鹿なこと考えちゃって。ママ頑張るから、よろしくね」
淡いオレンジ色のサブリナパンツの腹に語りかけた。
芽生えたばかりの命に。
そして、ビリリ!と勢いよく紙を引き裂く。
立ち上がり、細かく裂いたそれをゴミ入れに放り込んだ時、奥の席を陣取る老婆と目があった。
「それ、あんたの子か?」
手押し車に手を掛けた老婆は、歯のないすぼんた口元に、淀んだ目をして訊いた。
警戒しながら、美緒は、はい、と答える。
老婆のひと癖ありそうな雰囲気は、どことなく小6の時、亡くなった祖母に似ていた。