名前を教えてあげる。


老婆は落ち着きなく、美緒とバギーの恵理奈を交互に見ながら言った。


「今の若いもんは皆、遅いから。
あんたみたいのは、珍しいね。
私ゃ16で長男生んでから、ポンポン生んだよ。貧乏子沢山。
大変だったよ。

リヤカー引いて、畑で作った野菜、行商したり、
近所から裁縫の仕事貰ったり、
寝る間も惜しんで働いたよ。

ビルマ帰りの旦那は酒浸りだったし、ろくに働きゃしないんだもの。
賭け事はしなかったけど、女は好きでね。1週間も2週間も帰ってきやしない。口答えすりゃ殴られる。苦労したよ。

……もうとっくに死んだけどね」



相槌に困り、はあ…と曖昧に返事をしながら、美緒は心の中で彼女を
『福子婆ちゃん』と名付けた。


(順が帰ってきたら、福子婆ちゃんに出会った話を聞かせてやろう……)


そう思った途端、クスリ、と笑いが漏れた。





ヒロが日本に帰国したのは、4ヶ月振りだった。
都心にある一流ホテルのセミスィート。





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