名前を教えてあげる。


その金で今の自分達がいるのだ。
ーーー倹しいけれど、特に不自由もない生活。



「一度、恵理奈を連れて、顔を出してやれよ。それだけで姉さんは安心する」


「…でも」


順は眉をゆがめた。


「お前の母さんは俺の姉だ。
何があったかはだいたい見当が付く。

お前はもう父親だ。

人を赦すことを覚えろ。
じゃないと結局自分自身を追い詰めることになる。恵理奈のことも考えろ。

この子にとって、お前の親は血の繋がった家族なんだ…
お前達に何かあった時、絶縁状態じゃ、この子はどうしたらいいんだ?天涯孤独のような状態になってもいいのか?」


ここまで言うと、ヒロは腕時計をチラリと見て、スラックスの長い脚をほどいた。
両手でパン!と腿を打つ。


「……さて、俺はこれから約束があるんだ。お前たち、今夜だけなら、この部屋に泊まっていってもいいぞ。
俺は彼女のマンションに泊まるから」


「えぇっ?マジ?やった!ルームサービス頼んでもいい?」


順は、ころりと態度を変えて甘える口調になった。


「ああ」


ヒロは鷹揚に頷いた。


(天涯孤独…かあ。
まるで私のことを言ったみたい…)


美緒は悲しくなり、鼻の奥がツンとした。



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