名前を教えてあげる。


「昨日、中里の家に行った。
順、お前の母さん、えらく自分を責めてるよ。
お前たちの意思も聴かず、頭ごなしに押さえ付けた結果、こんなことになってしまったってな。

学生結婚だと思って出産を認めてやれば、大学の推薦入試を蹴ったりせずに済んだのかもしれないな。

若いお前たちが2人で力を合わせて頑張ってる姿は素晴らしいと思う。

だが、いつまでこんな生活してる気なんだ?
ずっとガソリンスタンドでアルバイトして生きていくつもりなのか?

……順よ。
お前がどれだけ大切に育てられていたかは、お前自身が1番よくわかっているだろう?

お前が持ち出した400万は、中里家にとっては、はした金だが、世間じゃ親に訴えられても仕方ないレベルの金額だぞ」


「……」


順は、恵理奈を抱いたまま俯き加減に、じっとテーブルの上に置かれたチョコレートハニーヌガーの箱を見つめていた。


レンゲの花に群がるハチをモチーフにした美しいイラストが描かれたそれは、捨ててしまうのがもったいないほどだ。


家族思いの順。
そんな順が自分の為に犯罪すれすれの行為を選んだことに、美緒は胸が締め付けられる思いがした。



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