名前を教えてあげる。


「大丈夫!ヒロがちゃんと話しておいてくれてるよ。あの人、交渉も得意だし」


順は笑みを浮かべながら、抱っこホルダーで恵理奈を前に括りつけた美緒の背中をさする。


「幸せにやってるからって、分かって貰うのが1番の目的。自分たちのペースで行こう」


美緒を励ますようで、自分を鼓舞するように言う。


「まあ、順!」

白を基調としたリビングルームで、順の母・春香は、晴れ晴れとした笑顔で3人を迎えた。


「元気だったの?ああ、少し痩せたんじゃない?ちゃんとお顔、見せてちょうだい…」


甘えた声を出し、息子の頬を両手で挟みこもうとする春香を、順はさりげなくかわした。


一瞬、春香の顔は曇るが「はい、これチーズケーキ」と順が手土産のケーキを差し出すと、すぐ笑顔を取り戻した。


順の父は、今春にシンガポール支社長の辞令が下され、単身赴任中だという。


約9ヶ月ぶりの息子との再会に春香は、レースのハンカチを目に押し当てて喜び、その隣で小肥りの家政婦ももらい泣きをしていた。

60代半ばの矢田育子が、中里家に雇われたのは、今年に入ってからのことだという。




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