名前を教えてあげる。


ぐいぐい身体を押し付けてくる美緒に、哲平は呆れ顔をした。


「…11月だぜ。降るかよ…
こんな状況、襲われたって文句言えねえぞ。世間知らずだな!」


「ええっ!哲平が私のこと襲うわけないじゃーん!哲平はあ、お兄ちゃんみたいな存在だよ?」


美緒は、キャハハハと周囲に響き渡る笑い声をたてた。


マナーモードにした美緒の携帯には、順からのメールと電話の着信が何件も溜まっていた。
けれど、酔った美緒にはもう文字が打てず、素面でないこの状態では、電話連絡も躊躇われた。


初めての美緒の夜の外出に、順が心配していることは間違いないけれど、電池切れしてしまったことにすればいい。

逡巡した後、そう決めた。


「……それにぃ!」


美緒は歌うように続けた。


「襲われたってえ〜哲平ならいい!私は哲平のこと大好きだから〜……内緒にしてあげる。私はあ、秘密ちゃんと守る人だよ!
…………あ!」


いきなり、哲平の足がとまった。


美緒はつんのめって、前屈みになった。


「え………?」


哲平を見上げる。


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