名前を教えてあげる。
「3時に仕事、終わったって?
雨降ってるわけでもないのに?どういうこと?
タケシは工期が押しててメチャクチャ忙しい現場だって、言ってたよね?」
「……合わねえんだよ!」
「なにが?」
「……」
炬燵を挟んだ向こうで、光太郎はだんまりを決め込み、テレビ に視線を戻した。
こうなると、頑固な光太郎は貝のようになってしまう。
ぷいと出ていかれて、パチンコにでも行かれたら困る。問い詰めるのはまずい。
同居前は、恵理奈を紀香に預けて駅前のパーラーに行き、2人で2万や3万使っていたけれど、協力し合って築いていかなければならない今、そんな散財は許されない。
子供を1人前するには、何千万という金が掛かる時代だ。
「こうちゃん…もう無理しないで、職変えしたら?介護とかさ。やり甲斐あるんじゃない?」
「……うるせえな、指図すんな…」
きつく聞こえないよう気を使ったのに、光太郎はさらに口をへの字に曲げた。
「こう…ちゃんが」
恵理奈が泣きじゃくりながら、喋り出した。
「恵理奈の本と…マ、ママの…捨てちゃっ…たの…」
「うるせえっ!」