名前を教えてあげる。


家計は本当にギリギリで、こんな場所で遊んでいる場合ではなかった。


このところ、光太郎はまた腰痛を理由に仕事を早退けしたりしている。そして、家で格闘技やRPGのファミコンに熱中していた。

散財することはないから、まだいいのだけれど、これでは軽く引きこもりと同じだ。

そのくせ、美緒が仕事で夜遅く帰宅しても、洗濯物は外に干しっぱなしだったりする。


来春、恵理奈は小学生になるから、いろいろ物入りなのに。
龍亜はもうとっくに祖父母から黒のランドセルを贈られたという。

それを聞いて、田中みどりから貰った3万でランドセルを買おうかと思ったけれど、やはり借金返済が先だと思い直し、光太郎に渡した。


光太郎は今、横浜の臨海地区にあるマンション建設現場に携わっている。仕事場を変えたことで、タケシとは縁を切れたけれど、借金が消えたわけではない。


『国分五郎(こくぶん ごろう)』


この名前を知った日、美緒は自宅のノートパソコンで検索をかけてみた。

農業を営む田舎暮らしの男の情報なんかヒットするはずがないと分かっていたけれど、自分の父親がどんな人物かどうしても知りたくて、藁にも縋る気持ちだった。



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